ぼくが KμC に決めた理由
※ 当然のことながら,僕は大企業で働いた経験が無いので以下は全て想像です
はてなブックマークのコメントで,マイクロソフトなどの選択肢(他の,名の知れた優良大企業という意味だと思う) は無かったのだろうか ?というようなコメントをいただいた.
まぁ,もちろん,自分が MicroSoft 社とか google 社のような大企業(?)に入ろうとしても入れないだろう (し,受ける気もない) という現実はあるのだけど.
大学院の研究室の同期は,全員が大手 SI 企業(?)に行った.僕達が出た年は,団塊の世代の大量定年となる 2007 年問題の影響もあってか,かなりの売り手市場だった.みんな特に苦労せずあっさり誰でも知ってるような企業の内定をもらっていた (なので文系とかの人が数十社も受ける,っていうのを聞くと大変だなと思う.同期はみんな,たとえば 3 社大手を受けて,全部内定とかあたりまえな感じに見えた) もちろん,僕の同期が非常に優秀だったのかもしれない.後輩も,学内推薦でするっと,ほぼ親方日の丸というか,そういう大企業に受かっていた (インフラなので絶対に潰れないだろう).順当に 40 代ぐらいまで勤め上げれば,年収 1200 万ほどまでに行くらしい.うらやましい限りだ.
しかし,僕はあんまり大企業には食指が動かなかった.なんというか,いかにも中二病な言い方だけど,会社の小さな歯車になって,上から与えられた仕事を左から右に流すだけのような仕事が嫌だったのである.
新山さんとかも書いてる通り,働く喜びややりがいという点では,おそらく中小企業の方が上だと思う.個人の裁量が大きくなるので,リスクや責任も大きくなって大変なんだけど,そのぶん,企画から開発,顧客からの評価やフィードバックまで,全てにおいて関わることができると思う.
大企業では,なかなか人が育ちにくいようなイメージがある.大企業でしかできない大きなプロジェクトや研究開発に関われる半面,一人一人の役割が細分化され,全体が見えにくくなってしまう.また,個人の責任追求を逃れられるし,自分で全部考えて悩まなくて良くて楽だから,どうしても指示待ち人間になりがちな気がする(というか,そもそも自由に動けないのだと思う) また,細分化されるがゆえに,スーツやギークとか,僕からすればよくわからない区別や論争もあったりする (それぞれに役割があって,どちらも会社にとって重要なのだから,つまらない喧嘩してる場合じゃないだろと思う.それに限らず,日本の省庁とか,いろんなとこにもある変な派閥意識は,大局的に見れば全部有害だと思う).こういうのは大企業病なのだと思う.自分の小さな区画しか見えてないし,全体を見ようとともしないし,そもそも全体があることを忘れてしまう.自分たちで組織を変えようという意識が消え,組織にべったり依存しながらも,組織の悪いところの愚痴を言うだけになってしまう (まぁ,今の日本自体がそうだし,あんまり民主主義がうまく回っていないような感じもする).
知人の医療事務員から聞いた話だと,これは大病院とかでも同じらしい.大病院は,研修医をたくさん抱えているから,看護師さんは点滴などをする必要は無いので,だんだんと本当に看護しかできない看護師になってしまう.小さい病院の方は,点滴とかそういうことまで全部やらないといけないので,大変だけどスキルが付くそうだ.大病院から小さな病院にきた看護師さんは,やっぱりそういう雑多な状況に順応できなくてすぐに辞めてしまう人が多いらしい.
もちろん中小企業には,良い面ばかりでなく,駄目な面も非常に多い.個人の裁量が多くて,なんでもやらないといけないということは,裏を返せば,くだらない雑用に忙殺されてしまう危険性あるし,狭い世界だけに関わって一生を追えてしまう可能性もある.仕事に行き詰まったり,やりがいを失ってしまったとしても,代わりの人材はいないので,次の人に引き継ぐまで安易に会社も辞められない.また,身体を壊してしまったら,その場でアウト.戦力にならない人材を雇っておけるほど,中小に体力は無い.
大企業ならば,様々な部署,場合によっては海外を経験することによって,広い世界を見ることができるし,中小企業ではできない,いろいろな経験をする機会も多いと思う.体調を崩したり,モチベーションが下がったときは,他の部署に移ったり,しばらく休職したりできる企業体力や福利厚生も中小とは比較にならない.
あと,非常に大きな要因として,小さいところは給料が安い.仕事量やプレッシャーやストレスと割が合うぐらいの対価が無ければ,やはりモチベーションを保つのは難しい.これから,奥さん養って,マンション買って,子供を私立に入れて… やはりお金はいくらでも要るし,金が無いためにやりたいことができなくて人生が楽しめないのでは本末転倒だ.お金が無ければ自分がお世話になった人たちに恩返しもできないし,苦境から救い出したい人を救うこともできない.
そんなこんなで,大企業にも中小企業にも,それぞれメリットデメリットがあるし,自分は,まだ判断がつかなかったので,ある意味では消去法でドクタに進んだ.アカポスの世界も,中小企業と同じようなデメリットはたくさんあるし,何よりも 30 代中盤ぐらいまで定職が得られない可能性や,そもそもやりたいことができるポストが得られない可能性も大きい.それでも,とりあえず判断は先送りできるし,企業に入るよりは自分のやりたいことができる可能性が高そうに,その時は思えた.
そしたら,たった半年の間に,いろいろ状況が動いてきた.要するに,良さそうな企業と巡り会えたし,いろいろ個人的な事情で,早く働きたい,働かねばならないと強く思うようになった.
もともと,QLeap さんがはこだて未来大学の学生だった時代から,なぜか mixi で交流があった.今となっては,どういう経緯で知り合ったかはよくわからないけど,たぶん大学の先輩の友人の知人とかいう,けっこう変な知り合い方だったと思う.非常に縁の力を感じる.
最近,QLeap さんが twitter を始められたり,その縁で OSC 2008-do の GCC フロントエンドのデバッグを手伝ってもらったり (この時,KμC のデバッガすげーと思った),LL Future で初めて会って話をしたり,なんやかんやで KμC 社を見学する流れになった.
そこで,社長を初めとする素晴らしい人たちに巡り会って,いろいろ話をした.みんな,自分よりも 20 歳ぐらい上のはずなのに,非常に若々しくて元気いっぱいでハツラツとしている.人間は,好きなことやって,良く生きていると,こういう風に歳を取れるのか!とカルチャーショックだった.僕の中の IT 系の会社員のイメージというのは (これも極端だとは思うけど) なんとなくみんな嫌々働いていて,目が死んでいて常に疲れているようなイメージがあったから,なおさら.
そして,この企業ならば,自分の理想に近い生き方ができそうに思えたし,非常に良い待遇で迎えていただけることになった.具体的には,まだ博士課程を終了していないのに,博士課程卒と同待遇の給与で採用していただけることになった.大企業に行った同年代よりも,おそらく給与の面では恵まれているだろうし,将来的にも (全ては自分の成果しだいだけど) 同じかそれ以上は稼ぐことができそうに思えた.
採用が決まった後,大変お世話になった T さんに,厳しくて暖かい言葉をいただき,この会社に決めて良かったなぁと思った.
「『自分はまだ会社のお荷物だ,早く戦力になりたい』 と焦る気持ちやプレッシャーは大事だし,忘れてはいけない.しかし,焦りすぎてはいけないし,プレッシャーに潰れて欲しくも無い」
「極論すれば,君がどれだけ頑張っても頑張らなくても,会社の戦力になってもならなくても,我が社にはいっさい影響は無い」
「そもそもそんなに人手不足でも無いし,即戦力を求めてもいない.君はじっくり成長して育って,我が社の 10 年後,20 年後を支えて引っ張る人材になって欲しい」
「現時点で人手不足で,即戦力を募集しているような会社というのは,要するに十分な製品なりサービスなりサポートなりを提供できていないということであり,その時点で企業としてはけっこうヤバい.顧客に対して失礼だし,誠実では無い」
「もちろん,普通の企業のように,細かな雑用や,すぐに成果になりやすい仕事を新人に投げてやってもらう,というようなこともできるし,それはやってもらうこともあるかもしれない.しかし,それを我が社はキミに求めていない」
上から小さい仕事を与えられてこなしていると,そこで満足して止まってしまうんですよね.
一応は働いて貢献できているわけなので,「自分は給料のぶん働けていない」 という焦燥感が無くなってしまい,現状に甘んじてしまう.結果的に,自分で仕事を作るのではなくて,人が仕事をくれるのを待ってるだけの指示待ち人間になってしまう.
「大企業の中にもできる人はいるけど,どうもみな 40 代以上のような感じがある.もちろん優秀な人たちは隠れているんだろうが,もしかしたら大企業的なやり方というのは,若い人を育てるのには向かないのかもしれない」
大企業のやり方というのは,大量の人を使うための方法であって,個人を育てるには向かないんじゃないのかな,という気がします.まぁ,大企業と言ってもいろいろありますし,一概には言えないと思いますが.
「とは言うものの,最初から上手く動けるわけはないから,わからないことがあったら何でもまわりの人に聞いてくれて全然かまわないし,上司やまわりの人に相談しながらやるってのが大切.逆に言うと,聞かなければ誰も何も教えてくれ無いし,うちの会社は研修も教育も何もない.ある意味では非常に楽でゆるい会社だし,ある意味では非常に厳しい会社だと思う.向かない人はすぐに潰れるだろうし,そのような人には入ってきて欲しくないと思っている.少なくとも,万人に向く会社ではないことは確かだ」
本当に,大学の研究室みたいな会社なんですよね.もともと,社長がやりたいことをやって食っていくために作った会社で,社長が一番コード書いてて,社長が一番金の話をしない変な会社です.社長室に入ると基板が山のように置いてあって,どう見ても工房.普通,社長は会社の話をするものですが,うちの社長は自分が作ったものの話ばかりする.20 数年経った今でもその社風は残っていて,各人が自分の興味とビジネスをいかにして結びつけるか,という点が重視される,要するに,みんなが好きなことできて,幸せになって欲しいという会社 (jkondo さんとかの例のエントリとかみたいに,いろいろ誤解されると困るので一応書いておきますけど,もちろん良いところばかりではなくて,この世で一番厳しいのは自由です.人間は,自由だと選択肢が多すぎて潰れるから,無意識のうちに不自由を求めて,誰かに命令されたい,従いたい,判断を委ねたい,安定したいと思う.僕のいうことは鵜呑みにしないで,自分が何をしたいのか,何をできるのか,どうなりたいのか,ということを常に考えて,たくさん悩んで進路を決めてください.人の言う甘い言葉をそのまま信じてはいけません 「熹一,常に灘神影流を疑え」).
普通の企業は,即戦力を求めるものだと思いますが,全く逆のことを言われたので,非常に衝撃的でした.即戦力はいらないから,我が社に長年蓄積した技術を若い人に受け継いでもらって,さらに新しい風を吹き込んでほしい,ここまでの 20 年は私たちが引っ張ってきたが,ここからの 20 年はきみや QLeap くんのような若い人たちに,そういうことを期待している,と言われました.
とりあえず,いろいろな意味で面白い会社でした.履歴書を送ってくれといわれて,メールに word ファイルが添付してあって,それに記入して送り返すだけだったとか,食後と三時にオヤツタイムがあって,40 過ぎの大人たちみんなが大マジで大画面でマリオカートをやってたりとか,いろいろ斬新でした.人を選ぶ会社だとは思いますが,自分には合っているのではないかと思いました.技術一本の会社らしく,本はいくらでも買ってくれる (というか,買った後に事後報告で良いらしい) し,ハードウェアからソフトウェアまで,面白そうなことは何でもやらせてくれるみたいです.
この会社の持ち味や魅力というのは,受注開発や下請けを一切やらず,ある種極めてニッチな部分に全力で取り組み,技術やノウハウを蓄積し続けた結果であり,今後も何十年も持つような安定したものではないと思います.社長も,何度も 10 年後,20 年後に,会社は無いかもしれない.未来を作って行くのは君たち自身だし,それを楽しいと思えるような人に来てほしい.それじゃ不安だ,安定が欲しいという人は,やはり大企業や公務員になった方が良いだろうと強調していました.
そんなこんなで,まだ将来どうなるか全然わかりませんし,これからいろいろと厳しい現実を知っていくのかもしれませんが,とりあえず今は未来に非常に期待していますし,この閉塞感溢れる時代に,やりたいことがやれそうで,夢を見ることができる自分は非常に恵まれていると思います.
はてなブックマークのコメントで,マイクロソフトなどの選択肢(他の,名の知れた優良大企業という意味だと思う) は無かったのだろうか ?というようなコメントをいただいた.
まぁ,もちろん,自分が MicroSoft 社とか google 社のような大企業(?)に入ろうとしても入れないだろう (し,受ける気もない) という現実はあるのだけど.
大学院の研究室の同期は,全員が大手 SI 企業(?)に行った.僕達が出た年は,団塊の世代の大量定年となる 2007 年問題の影響もあってか,かなりの売り手市場だった.みんな特に苦労せずあっさり誰でも知ってるような企業の内定をもらっていた (なので文系とかの人が数十社も受ける,っていうのを聞くと大変だなと思う.同期はみんな,たとえば 3 社大手を受けて,全部内定とかあたりまえな感じに見えた) もちろん,僕の同期が非常に優秀だったのかもしれない.後輩も,学内推薦でするっと,ほぼ親方日の丸というか,そういう大企業に受かっていた (インフラなので絶対に潰れないだろう).順当に 40 代ぐらいまで勤め上げれば,年収 1200 万ほどまでに行くらしい.うらやましい限りだ.
しかし,僕はあんまり大企業には食指が動かなかった.なんというか,いかにも中二病な言い方だけど,会社の小さな歯車になって,上から与えられた仕事を左から右に流すだけのような仕事が嫌だったのである.
新山さんとかも書いてる通り,働く喜びややりがいという点では,おそらく中小企業の方が上だと思う.個人の裁量が大きくなるので,リスクや責任も大きくなって大変なんだけど,そのぶん,企画から開発,顧客からの評価やフィードバックまで,全てにおいて関わることができると思う.
大企業では,なかなか人が育ちにくいようなイメージがある.大企業でしかできない大きなプロジェクトや研究開発に関われる半面,一人一人の役割が細分化され,全体が見えにくくなってしまう.また,個人の責任追求を逃れられるし,自分で全部考えて悩まなくて良くて楽だから,どうしても指示待ち人間になりがちな気がする(というか,そもそも自由に動けないのだと思う) また,細分化されるがゆえに,スーツやギークとか,僕からすればよくわからない区別や論争もあったりする (それぞれに役割があって,どちらも会社にとって重要なのだから,つまらない喧嘩してる場合じゃないだろと思う.それに限らず,日本の省庁とか,いろんなとこにもある変な派閥意識は,大局的に見れば全部有害だと思う).こういうのは大企業病なのだと思う.自分の小さな区画しか見えてないし,全体を見ようとともしないし,そもそも全体があることを忘れてしまう.自分たちで組織を変えようという意識が消え,組織にべったり依存しながらも,組織の悪いところの愚痴を言うだけになってしまう (まぁ,今の日本自体がそうだし,あんまり民主主義がうまく回っていないような感じもする).
知人の医療事務員から聞いた話だと,これは大病院とかでも同じらしい.大病院は,研修医をたくさん抱えているから,看護師さんは点滴などをする必要は無いので,だんだんと本当に看護しかできない看護師になってしまう.小さい病院の方は,点滴とかそういうことまで全部やらないといけないので,大変だけどスキルが付くそうだ.大病院から小さな病院にきた看護師さんは,やっぱりそういう雑多な状況に順応できなくてすぐに辞めてしまう人が多いらしい.
もちろん中小企業には,良い面ばかりでなく,駄目な面も非常に多い.個人の裁量が多くて,なんでもやらないといけないということは,裏を返せば,くだらない雑用に忙殺されてしまう危険性あるし,狭い世界だけに関わって一生を追えてしまう可能性もある.仕事に行き詰まったり,やりがいを失ってしまったとしても,代わりの人材はいないので,次の人に引き継ぐまで安易に会社も辞められない.また,身体を壊してしまったら,その場でアウト.戦力にならない人材を雇っておけるほど,中小に体力は無い.
大企業ならば,様々な部署,場合によっては海外を経験することによって,広い世界を見ることができるし,中小企業ではできない,いろいろな経験をする機会も多いと思う.体調を崩したり,モチベーションが下がったときは,他の部署に移ったり,しばらく休職したりできる企業体力や福利厚生も中小とは比較にならない.
あと,非常に大きな要因として,小さいところは給料が安い.仕事量やプレッシャーやストレスと割が合うぐらいの対価が無ければ,やはりモチベーションを保つのは難しい.これから,奥さん養って,マンション買って,子供を私立に入れて… やはりお金はいくらでも要るし,金が無いためにやりたいことができなくて人生が楽しめないのでは本末転倒だ.お金が無ければ自分がお世話になった人たちに恩返しもできないし,苦境から救い出したい人を救うこともできない.
そんなこんなで,大企業にも中小企業にも,それぞれメリットデメリットがあるし,自分は,まだ判断がつかなかったので,ある意味では消去法でドクタに進んだ.アカポスの世界も,中小企業と同じようなデメリットはたくさんあるし,何よりも 30 代中盤ぐらいまで定職が得られない可能性や,そもそもやりたいことができるポストが得られない可能性も大きい.それでも,とりあえず判断は先送りできるし,企業に入るよりは自分のやりたいことができる可能性が高そうに,その時は思えた.
そしたら,たった半年の間に,いろいろ状況が動いてきた.要するに,良さそうな企業と巡り会えたし,いろいろ個人的な事情で,早く働きたい,働かねばならないと強く思うようになった.
もともと,QLeap さんがはこだて未来大学の学生だった時代から,なぜか mixi で交流があった.今となっては,どういう経緯で知り合ったかはよくわからないけど,たぶん大学の先輩の友人の知人とかいう,けっこう変な知り合い方だったと思う.非常に縁の力を感じる.
最近,QLeap さんが twitter を始められたり,その縁で OSC 2008-do の GCC フロントエンドのデバッグを手伝ってもらったり (この時,KμC のデバッガすげーと思った),LL Future で初めて会って話をしたり,なんやかんやで KμC 社を見学する流れになった.
そこで,社長を初めとする素晴らしい人たちに巡り会って,いろいろ話をした.みんな,自分よりも 20 歳ぐらい上のはずなのに,非常に若々しくて元気いっぱいでハツラツとしている.人間は,好きなことやって,良く生きていると,こういう風に歳を取れるのか!とカルチャーショックだった.僕の中の IT 系の会社員のイメージというのは (これも極端だとは思うけど) なんとなくみんな嫌々働いていて,目が死んでいて常に疲れているようなイメージがあったから,なおさら.
そして,この企業ならば,自分の理想に近い生き方ができそうに思えたし,非常に良い待遇で迎えていただけることになった.具体的には,まだ博士課程を終了していないのに,博士課程卒と同待遇の給与で採用していただけることになった.大企業に行った同年代よりも,おそらく給与の面では恵まれているだろうし,将来的にも (全ては自分の成果しだいだけど) 同じかそれ以上は稼ぐことができそうに思えた.
採用が決まった後,大変お世話になった T さんに,厳しくて暖かい言葉をいただき,この会社に決めて良かったなぁと思った.
「『自分はまだ会社のお荷物だ,早く戦力になりたい』 と焦る気持ちやプレッシャーは大事だし,忘れてはいけない.しかし,焦りすぎてはいけないし,プレッシャーに潰れて欲しくも無い」
「極論すれば,君がどれだけ頑張っても頑張らなくても,会社の戦力になってもならなくても,我が社にはいっさい影響は無い」
「そもそもそんなに人手不足でも無いし,即戦力を求めてもいない.君はじっくり成長して育って,我が社の 10 年後,20 年後を支えて引っ張る人材になって欲しい」
「現時点で人手不足で,即戦力を募集しているような会社というのは,要するに十分な製品なりサービスなりサポートなりを提供できていないということであり,その時点で企業としてはけっこうヤバい.顧客に対して失礼だし,誠実では無い」
「もちろん,普通の企業のように,細かな雑用や,すぐに成果になりやすい仕事を新人に投げてやってもらう,というようなこともできるし,それはやってもらうこともあるかもしれない.しかし,それを我が社はキミに求めていない」
上から小さい仕事を与えられてこなしていると,そこで満足して止まってしまうんですよね.
一応は働いて貢献できているわけなので,「自分は給料のぶん働けていない」 という焦燥感が無くなってしまい,現状に甘んじてしまう.結果的に,自分で仕事を作るのではなくて,人が仕事をくれるのを待ってるだけの指示待ち人間になってしまう.
「大企業の中にもできる人はいるけど,どうもみな 40 代以上のような感じがある.もちろん優秀な人たちは隠れているんだろうが,もしかしたら大企業的なやり方というのは,若い人を育てるのには向かないのかもしれない」
大企業のやり方というのは,大量の人を使うための方法であって,個人を育てるには向かないんじゃないのかな,という気がします.まぁ,大企業と言ってもいろいろありますし,一概には言えないと思いますが.
「とは言うものの,最初から上手く動けるわけはないから,わからないことがあったら何でもまわりの人に聞いてくれて全然かまわないし,上司やまわりの人に相談しながらやるってのが大切.逆に言うと,聞かなければ誰も何も教えてくれ無いし,うちの会社は研修も教育も何もない.ある意味では非常に楽でゆるい会社だし,ある意味では非常に厳しい会社だと思う.向かない人はすぐに潰れるだろうし,そのような人には入ってきて欲しくないと思っている.少なくとも,万人に向く会社ではないことは確かだ」
本当に,大学の研究室みたいな会社なんですよね.もともと,社長がやりたいことをやって食っていくために作った会社で,社長が一番コード書いてて,社長が一番金の話をしない変な会社です.社長室に入ると基板が山のように置いてあって,どう見ても工房.普通,社長は会社の話をするものですが,うちの社長は自分が作ったものの話ばかりする.20 数年経った今でもその社風は残っていて,各人が自分の興味とビジネスをいかにして結びつけるか,という点が重視される,要するに,みんなが好きなことできて,幸せになって欲しいという会社 (jkondo さんとかの例のエントリとかみたいに,いろいろ誤解されると困るので一応書いておきますけど,もちろん良いところばかりではなくて,この世で一番厳しいのは自由です.人間は,自由だと選択肢が多すぎて潰れるから,無意識のうちに不自由を求めて,誰かに命令されたい,従いたい,判断を委ねたい,安定したいと思う.僕のいうことは鵜呑みにしないで,自分が何をしたいのか,何をできるのか,どうなりたいのか,ということを常に考えて,たくさん悩んで進路を決めてください.人の言う甘い言葉をそのまま信じてはいけません 「熹一,常に灘神影流を疑え」).
普通の企業は,即戦力を求めるものだと思いますが,全く逆のことを言われたので,非常に衝撃的でした.即戦力はいらないから,我が社に長年蓄積した技術を若い人に受け継いでもらって,さらに新しい風を吹き込んでほしい,ここまでの 20 年は私たちが引っ張ってきたが,ここからの 20 年はきみや QLeap くんのような若い人たちに,そういうことを期待している,と言われました.
とりあえず,いろいろな意味で面白い会社でした.履歴書を送ってくれといわれて,メールに word ファイルが添付してあって,それに記入して送り返すだけだったとか,食後と三時にオヤツタイムがあって,40 過ぎの大人たちみんなが大マジで大画面でマリオカートをやってたりとか,いろいろ斬新でした.人を選ぶ会社だとは思いますが,自分には合っているのではないかと思いました.技術一本の会社らしく,本はいくらでも買ってくれる (というか,買った後に事後報告で良いらしい) し,ハードウェアからソフトウェアまで,面白そうなことは何でもやらせてくれるみたいです.
この会社の持ち味や魅力というのは,受注開発や下請けを一切やらず,ある種極めてニッチな部分に全力で取り組み,技術やノウハウを蓄積し続けた結果であり,今後も何十年も持つような安定したものではないと思います.社長も,何度も 10 年後,20 年後に,会社は無いかもしれない.未来を作って行くのは君たち自身だし,それを楽しいと思えるような人に来てほしい.それじゃ不安だ,安定が欲しいという人は,やはり大企業や公務員になった方が良いだろうと強調していました.
そんなこんなで,まだ将来どうなるか全然わかりませんし,これからいろいろと厳しい現実を知っていくのかもしれませんが,とりあえず今は未来に非常に期待していますし,この閉塞感溢れる時代に,やりたいことがやれそうで,夢を見ることができる自分は非常に恵まれていると思います.
